それが愛ならかまわない
「ああ、篠塚さん。体調崩されたとか……大丈夫ですか」
「少し休んだので落ち着きました。この度はお約束していたにもかかわらず私自身で対応出来なくて本当に申し訳有りませんでした」
まだ少し頭痛は残っていたけれどそんな事はお首にも出さず、顔の表面に笑顔の仮面を貼り付けて頭を下げる。会話が上滑りしているのが自分でもよく分かった。
「ああ、いいんですよ。お話は井出島さんと大友さんからきっちりうかがえましたし。篠塚さんは綺麗な方なので訪ねて頂けるとうちの社員も喜ぶんですが、社内でも若過ぎる女性が担当というのは少し不安の声が……と」
そこまで言って、しまった、という顔でNTの担当者が口をつぐむ。さすがに本人に向かって口にしていい話じゃないと気づいたんだろう。どうやら彼は口が軽いタイプの様だった。
そう言えばこの会社は各支店の窓口に女性社員はいても、私が営業として数回訪れた本社は事務の数名をのぞいて殆どが平均年齢高めな男性社員ばかりだった事を思い出す。
「いえ篠塚さんに問題があったとかそういう訳じゃないんですけどね」
「篠塚はこう見えてもう四年目ですし優秀な営業なんですよ」