それが愛ならかまわない

「女だからとか若いとか顔がどうとか。今のは向こうが失礼だったし一種のセクハラだよ。たまにいるよね、ああいう頭の堅い団塊世代。まあ向こうも口が滑ったって感じだったし思ってても暴露するつもりまではなかったんだろうけど」


 福島さんは同じ女性として今の担当者の余計な一言に内心カチンときていたらしい。


「お客さん相手に怒れませんよ」


「もうあの人帰っちゃったからいいでしょ。別に直接客に向かって怒れって事じゃなくて、ちょっとは悔しそうな顔でもしたらって意味」


「まあまあ福島」


 井出島部長が福島さんをなだめている。
 福島さんの言いたい事は分かる。私だって物凄く悔しい。確かに体調崩して打ち合わせをドタキャンする羽目になったのは私の落ち度だ。そこを突かれるならまだ分かる。けれど歳が若いから、そして女だから信用出来ないと言われたらもう正直どうすればいいのか分からない。熱意だけの営業の話を聞いてくれる客はそう多くはない。それを打破するための策、付加価値として手をかけた容姿と愛想笑いが裏目に出てしまったらもう私は何も出来ない。ここに至るまで尽力してきた私の時間は一体何だったんだろう。
 けれどここでその感情を露骨に表に出して部長達に気を遣わせる事すら既に面倒臭かった。もう今は何も考えたくない。

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