それが愛ならかまわない
「倒れたんだって?」
開口一番飛んで来たのはそんな科白だった。
なんでこんな所に、と思ったけれど、総務と人事のあるフロアなんだから社内の誰がいてもおかしくはない。
久しぶりに正面から顔を合わせた椎名はほんのり目の下に隈が出来ていて、元はセットしてあったと思われる髪が崩れている。席に置いてきているのか、珍しくジャケットを着ていないしネクタイもしていなかった。
長嶺さんが言っていた様に、会社に泊まり込みで仕事をしているのは椎名も同じらしい。
「もしかして、あの時食堂にいた?」
人の邪魔にならない様に、ついでに目立たない様に壁際に寄ってから訊ねてみる。
「いや、長嶺さんに聞いた。……具合は?」
そう言えば長嶺さんも食堂にいたのだから私が倒れたのも知っていて当然だった。
けれど倒れる寸前、椎名を見た様な気がしたのは完全に気のせいだった訳だ。その場にいない人間の幻を見るなんて、どれだけ私の頭は椎名の事を考えているんだろう。
「倒れたのは事実だし今日はもう帰るけど別に平気」