それが愛ならかまわない

「倒れた原因って"仕事のし過ぎ"じゃないの。休みなく詰め込んでるだろ」


「そんな事……」


 ない、とは言えない。反射的に口にしかけた否定の言葉が最後まで形にならずに消えて行く。
 椎名の言う『仕事』が社内での業務の事じゃなく、バイトの事を指しているのは明白だった。
 言われなくても分かっている。自分の許容量も把握出来ずに突っ走った結果が今日のこれだ。内情を知った上できっちり見抜いている椎名に図星を指されて、みぞおちの奥がかっと熱くなった。


「いい加減あっち辞めて仕事に集中すれば。それか入る日や時間減らしてもらうとか。必要額まであともう少しなんだろ」


 結果的に体調を崩してしまった以上、椎名の言う事は至極当然だ。そう分かっているのに感情がついていかない。
 他人事だからって簡単に言わないでよ。早く自由になりたいって思って何がいけないの。ローンさえ払い終わってしまえば実家の母への複雑な感情も、北見先輩の存在に怯えるのにもけりがつけられるのに。仕事にだけ集中できるし、そうなったらもう体調に不安なんてなくなるのに。
 頭の奥に残る頭痛が胸の中のもやもやとした不快感を増長させていた。ここが社内なので気を遣ってか椎名も小声でボカした表現をしてくれているのに、その事にすら苛立ちが募る。

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