それが愛ならかまわない
「そう、莉子に別れるって言われて考えたんだ。莉子はもうすぐ二十七歳になるだろう。ちゃんと将来の事を話しておかなかったのは悪かったかなと思って。会社が軌道に乗ったらもちろん細かいことを決めるつもりだったんだ」
どうやらこの浅利康晴氏の中で私は結婚の話を出してくれないから別れを切り出した事になっているらしい。
馬っ鹿じゃないの。晩婚化の進む昨今、二十六歳は結婚を焦るような歳じゃない。そして女なら誰でも専業主婦願望があるわけでもない。
そもそも別に私は一方的に別れたつもりでいたわけじゃないし。確かに散々別れないと引き止められた。けれど私が頑として意思を翻さなかったので自分だって「莉子がそう言うなら」と最後には折れたじゃないか。
「会社辞めたら婚約してうちの実家で生活して母や祖母から浅利の家の事を学んでいって欲しいんだ」
「……」
姑達と同居で花嫁修業とか、はっきり言って万が一私がまだ浅利さんと付き合っていて結婚したいと思っていたとしても気持ち悪い。世の女性も大半はノーと言うだろう。
いくら外面を取繕っているからと言って私がそれを望んでいると本気で思えるあたり、この人やっぱり心底馬鹿だ。
「君に不自由はさせない。仕事に縛られず、好きな事をしていいんだよ」
腕を組んで無言を貫いている私に焦ったのか、浅利さんは必死でアピールを続ける。
確かに態度が悪いとは思うけれど、もう限界だった。