それが愛ならかまわない
「……自尊心の高過ぎる女って可愛くない」
大きく息を吐きながら、一段と低めの声で椎名が洩らす。普段は何考えてるんだか今ひとつ掴めない彼の顔に浮かんだ苛立ちと怒り。
もう、限界だった。
「じゃあ放っておいてよ!椎名なんかに可愛げがあると思ってもらわなくて結構!」
それ以上彼の前に居るのが苦痛で、その眼で視られる事に耐えられなくて、抑える様に小さな声で叫んでから振り切る様に走り出す。
人目のあるエレベーターを避けて非常階段に飛び込んだ。いつもならヒールが傷む事を気にしながら進む階段をガツガツと音を立てて駆け上がる。
椎名が追って来る気配はなかった。その事に安堵すると同時に涙腺がじわっと熱くなる。
ため息と共に椎名がぼそりと零した最後の一言が今更の様にざっくりと突き刺さる。
バイトに関する椎名の言葉は、皮肉でも何でもなく至極最もな忠告だった。なのに素直に受け取る事が出来なかったのは、結局椎名の言う通り捻れに捻れた挙句に私を縛る無駄に高いプライドのせい以外の何物でもない。
福島さんにヘラヘラ笑ってばかりいると言われたばっかりなのに、彼の前では愛想笑いすら浮かべられない。椎名が的確に人の弱みを見抜いて来るせいもあるけれど、どうしてもいつもの様に適当に笑って受け流す事が出来ない。
可愛げがない、なんて言われて当然だった。当然だと頭では理解しているのに、同時にショックを受けている自分にも腹が立つ。しかもまともな反論すらできずに泣いて逃げ出すなんて最悪だ。