それが愛ならかまわない
半日分の仕事を休んだ代償はそれなりにあって、結局私はその分の埋め合わせをするために出席するつもりだった社内セミナーを一つキャンセルする羽目になった。長嶺さんから事前に教えられていて、出欠確認の前に予定を空けてまで意気込んでいたので出席したかったけれどこればっかりは仕方ない、と思うことで自分を納得させる。
今更社内で倒れてしまった事は取り消せないし、今出来るのはとにかくこれ以上ミスをしないように細心の注意を払って仕事をする事だった。
椎名との口喧嘩がしこりの様に残ってあのやりとりを思い出す度に気分を重くしていたけれど、仕事に没頭してさえいればその間は忘れられるのが助かる。恋愛よりも仕事の方が大切だったはずなのに、溝口さんの事と言いすっかり仕事を逃避先にする癖がついてしまった。
学生時代、北見先輩と別れる時に揉めた上にローン騒動があって、恋愛に振り回されるのが嫌になった。だからこそ浅利さんも価値観の違いを悟って即シャットアウトした。
一番なりたくないタイプの人間に自分がなってしまっているのに、どうする事も出来ないのが辛い。自分でも椎名の一挙一動に気持ちを左右されている事が信じられなかった。
NTの件を大友さんに引き渡してしまったので、その分を埋めるべく新しくスケジュールを組み直していると名前を呼ばれた。少し離れた箇所から、後輩の男の子が受話器を持って立ち上がっている。
「篠塚さん、東計の田所さんから外線1番です」
「ありがとう。────お電話代わりました、篠塚です」