それが愛ならかまわない

 電話を代わって、型通りの挨拶を交わした所まではまだ余裕があった。


『先週送った追加依頼の件なんですが……』


 追加依頼?
 その言葉を聞いた瞬間にすっと血の気が引いて、嫌な予感がした。記憶に無い。
 焦りを声に出さないように注意しながら、デスクの上にある書類ケースを漁る。


『可否の返信をまだ頂いていないのでお電話させて頂きました』


 どうしたらいいのか考えながら必死に書類をめくっていたら、ようやくそれらしき物を見つけ手が止まった。別の書類を止めるクリップに一緒に挟まってしまっていて、そのせいで見落としてしまっていた様だった。
 受けている仕事に追加の発注で、納期は先行しているものに合わせる依頼だった。ボーダーラインギリギリに送られてきているので、相手としても受付られるのかを確認したかったらしい。
 日付を見ると丁度私が倒れて早退した午後に送られてきている。恐らく不在の間に送られてきたファックスなんかを机の上にまとめて置かれた時に引っかかってしまったのだと思う。有りがちではあるけれど確認のメールも来ていたので、その後の見落としは完全に自分の不注意だ。新人の頃にはよく似たような失敗をやらかしていたけれど、さすがに最近ではこんな事なかったのに。仕事に没頭しているつもりでこんなミスをするのは、結局集中しきれていない証拠に他ならない。


『間際になって追加オーダーかけてしまって本当にすみません。作業間に合いますか?』

< 165 / 290 >

この作品をシェア

pagetop