それが愛ならかまわない

 完全に私のミスだ。依頼を受領しておいて忘れていましたなんて洒落にもならない。


「……立岡、ちょっと」


 部長の手招きで少し緊張した面持ちの立岡さんがこちらに歩いて来る。


「東計の案件、どこまで進んでる?


「PTまで完了してます」


 試験が完了しているという事は、追加依頼が来る前の状態で仕上がってしまっているという事だ。追加変更をかけるとこれまで変更で行った試験は無駄な作業になってしまう。けれどまた次回として改めて依頼を出し直してもらっても、結局二度手間になる事に変わりはない。
 部長が私の手から抜き取った依頼書を立岡さんに回す。


「明日の朝までに行けるか?」


 立岡さんが無言で書類に目を通すのを私はただ黙って見ているしかなかった。


「……サーバーを一晩中占拠出来るなら何とか」


 一晩中。つまり徹夜作業をすれば予定通りの納品が可能。けれどその徹夜で作業をするのは私じゃない。

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