それが愛ならかまわない
「篠塚」
部長に眼で促され、私は立岡さんに勢いよく頭を下げた。周りが固唾を呑んで見守っているのが分かるけれど、そんな事気にしていられない。
「今晩中の作業、お願いします。私の不注意でご迷惑おかけして本当に申し訳ありません」
やらなければならない仕事をしていなかった。この場合の選択肢は二つ。強引に作業を間に合わせるか、取引先にミスを告白して納期を延ばしてもらうか。けれど実質後者の選択肢は存在しないに等しい。忘れてました、なんて言える訳がない。だから私は頭を下げて実作業をするエンジニアに頼み込む事しか出来ない。状況が状況だけに、もちろんこの間の様に笑いながら強引に押し通す訳にもいかない。
心底情けなかった。けれど今はこの間の医務室での様に落ち込んで悔しがる時間すらない。
「やります。……作業は俺がやるから誰かクロスチェックで今夜残れる人いる?」
真剣な顔で頷いた立岡さんが、振り返って自分の島にいるメンバーに問いかける。
他にも納期の迫る案件はあるし、この時間になって急に朝まで徹夜で作業と言われても手を挙げられる人はそういないだろう。それでも即答で断言してくれた立岡さんには感謝してもし足りない。