それが愛ならかまわない
通路に設置された喫煙ルームは中央に換気口付きの高めのテーブルが設置されていて、長時間のサボり防止の為に椅子はない。そこで立岡さんが両肘をついて煙草を吸っていた。
顔を合わせる度に謝って御礼を言いたくなるけれど、既に一度伝えた以上何度も繰り返すのは気を遣わせてしまうかもしれない。
その前に姿を晒すのを躊躇っていると、ガシャンとフロアのドアが開く音とコツコツという靴音がした。慌てて私はさらに一歩下がって自分の姿が見えないようにする。
「お疲れ。朝までに仕上げなきゃいけないくせに休憩取れる程余裕あんの?」
こちらに向かってきたのは福島さんだった。帰宅するのかと思いきや彼女は喫煙ルームのドアを開けて立岡さんに話しかけている。
彼女の言葉が何を指しているかは明白だった。
「お疲れ様。煙草一本分の休憩も取れない程切羽詰まってる訳じゃないよ」
気安い様子に、そう言えば福島さんと立岡さんって同期だったっけと思い出す。
喫煙ルームはガラス張りなので通過しようと思ったら中の二人からも私の姿が見えてしまう。立ち聞きは良くないと思いつつも何となく出て行き辛くて、結局二人からは死角になる位置でそのまま足を止めてしまった。
「っとに井出島部長も立岡君も篠塚さんに甘いよねー」
メンソールの細い煙草にライターで火をつけながら福島さんが言う。
状況が状況なので覚悟はしていたけれど、自分の名前が出て来て身体がビクリと強張った。聞かない方が良い話かもしれない。そう思っても脚が動かない。