それが愛ならかまわない

 二人の会話に少しずつ鼓動が早くなってきて、掌に微かに汗が滲んだ。
 まずい。本当にこれは先を聞かない方が良い気がする。そんな予感がするのにどうしても脚は床に貼り付いたかのように動いてくれない。


「彼女の困った所はそこなのよねー。手柄も失敗も自分個人のものだと思い込んでて何でも一人でやり遂げようとするから時々凄く視野が狭い。そもそも仕事ってのは会社のものなんだから、周りの手を借りる事にこの世の終わりみたいな顔しなくてもいいのに」


「まあ成績は数値化されるからなあ。でもうちはノルマがあるわけでもないのに篠塚は何か必死というか拘ってる感じはあるけど」


 もちろん私が聞いているなんて思っていないからだろうけれど。遠慮のない二人の言葉が耳どころか心臓に痛い。
 いつだってちゃんと人当たりの良い『篠塚莉子』を装えていると思っていた。本心と違う笑顔を悟らせない事くらい出来ていると思っていた。でもそうじゃなかった。


「確かにあのルックスでニコニコされたら色々ハードル下がるから営業かけ易そうだしね。ただ篠塚さんって相手を立てる事も自分を下げる事も出来る割に根本的にプライドが高い気がする」


 椎名だけじゃない。立岡さんや福島さんにも私の無駄に高いプライドは見透かされている。そう言えば長嶺さんにも「ギラギラ」なんて表現されたし、最近は自分のイメージ戦略が何一つ成功していない。
 立ち去るどころか段々穴があったら入りたくなってきた。いつも笑顔で余裕のあるふりをしていたつもりが、先輩社員には必死さがバレているなんて恥ずかし過ぎる。

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