それが愛ならかまわない
このままだとフロアに戻る事すら出来なくなる。
気力を振り絞って寄りかかっていた壁から手を放し、しびれた様に動かない脚をどうにか逆方向に向けた。喫煙ルーム内の二人で気づかれないように気配を潜め、エレベーターホールまで逃げて来てから大きく息を吐いた。
次に立岡さんや福島さんに会う時、どんな顔をすればいいのか分からない。今はいつも通りの自分を装える気がしなかった。
しばらく壁に寄りかかってぼんやりとしていると、チャイムの音がしてエレベーターの扉が開いた。
「ああ、篠塚君」
「……お疲れ様です」
鼻につく、梅田事業部長のいつもの整髪料の香り。
今は嫌な顔をしないのが今の精一杯で、とてもじゃないけれど愛想笑いなんて浮かべられない。とりあえず丁寧に会釈をする事で誤魔化した。
「依頼書一件すっ飛ばしてたって?」
当然と言えば当然だけれどもこの人の所まで話はいっているらしい。
「はい。私の不注意です、本当に申し訳ありません」