それが愛ならかまわない

* * *




 必要最低限まで照明を落とした薄暗く人気のないフロアで一晩中仕事をし、始業時間より大分早く早朝に出社してきた部長に最終チェックと作業の完了を確認してもらい、やっと承認印をもらった頃にはぐったりと疲れ果てていた。
 後の事は任せていいと言われたので遠慮無く帰宅する事にする。今無理をしてもまた同じ事の繰り返しになるのは目に見えている。明日からきちんと立て直す為にも、今日はしっかり休みたかった。それに今夜はバイトを入れてしまっているのでそれまで少しでも寝ておきたい。頭の中には色んな感情が渦巻いていて、気持良く眠りにつけそうな気は正直しなかったけれど。


 会社を出ると、朝の陽射しが眩しかった。この時期のそれはどこか白っぽく乾いていて夏の太陽ほどの威力はないにも関わらず、徹夜明けの身体にはその明るさが堪える。
 眠いというよりは頭の中がぼうっと麻痺したように全ての反応に対して鈍い。ただそのせいで何かを深く考えなくて済むのはありがたかった。


 重い手足を引きずって駅までの道を歩いて電車に乗り込み、自宅の最寄り駅に辿り着く頃には時計の針は十時を回っていた。
 通勤ラッシュが収まった後の比較的空いた時間帯。ターミナル駅でもないし、夜がメインの街なのでこの時間は比較的人影もまばらだ。
 のろのろと自動改札を出ようとして、隣の人と肩がぶつかった。


「あ、すみませ……」

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