それが愛ならかまわない
緩んだネクタイ。何度も指を通したと思われるサラサラと揺れる髪。この間会社で会った時と言い、スーツを着崩したラフな姿はあまり椎名のイメージになく新鮮に映ると同時にどうしてもあの日のホテルでの事を思い出してしまう。
「そっちは?」
順に改札を通った後で椎名が訊ねてくる。
営業の私が出歩いているのなんて特別珍しい事ではないけれど、場所が場所だけに外回りだとは思っていない様だった。
「……私のミスで緊急対応しなきゃいけない案件があって……徹夜で作業してもらってた。朝承認通ってとりあえず片付いたから私も帰って寝る」
椎名が少し目を見張った。ミスをした事を意外に思ってもらえるなら光栄だけれど、今はそれを喜ぶ余裕もない。
「本当に情けない。倒れたせいで頑張って契約まで漕ぎ着けた案件は担当外れなきゃいけなくなるし、依頼書の存在気づかなくて危うく仕事すっぽかす所だったし。こう連続してやらかしてたら査定にも響くかもしれないな……」
軽い自虐のつもりだったのに、口に出してしまうと思いの外卑屈に響く。無理矢理口角を上げようとしたけれど、顔の筋肉が重かった。多分随分と歪んだ笑顔になってしまったはずだ。何か吐き出してしまいたいのに感情の持って行き方が分からない。