それが愛ならかまわない

「私は元気なんで大丈夫ですよ。冷めちゃうんでこれ持って行きますね」


 器用に四つのカップを両手で持って溝口さんが給湯コーナーを出て行く。
 いつもニコニコしている彼女にしては珍しいなと思ったけれど、先日ミスが発覚した直後の自分も似たような感じだった事を思い出す。疲れているのかもしれないし、仕事で何かあった可能性もある。まあ単純に度重なる失敗によって私が幻滅された可能性もあるけれど。
 それとも椎名との事でテンションの下がる何かがあったのかもしれない、なんて心のどこかで考えてしまうのは下世話な想像だ。恋愛において綺麗事を言っても仕方ないけれどさっきの余裕と言い、ライバルに対して優位だと思うことでしか心の平穏を保てない自分の性格の悪さがつくづく嫌になる。
 いつまでもとぼけているわけにもいかない。椎名に自分の気持ちを明かす前に、溝口さんにも弁明しておかないと。


 そんな事を考えながら自分のコーヒーを入れ、カップを片手に給湯室を出ると、先に席に戻ったはずの溝口さんがそこに立っていた。


「わっ……どうしたの?コーヒー追加?」


 さっき考えた事の後ろめたさからか、必要以上に焦りを含んだ声を出してしまう。カップを大きく動かしてしまったけれど、中身が溢れなかったのは幸いだった。


「……あの、篠塚さん」


 相変わらず今日の溝口さんの表情は硬く、いつもの柔らかさがない。目線も下を向いたまま合わせてくれない。

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