それが愛ならかまわない
背を向けたまま喋っていたはずの福島さんが再度こちらを向いて呆れた様な顔をした。
「私は篠塚さんみたいに腹に溜め込んだりしないし空気読んで細かい気配りなんて無理だから」
確かに言いたい事をはっきり言い辛辣なのにカラッとしている福島さんに比べたら、言いたい事を飲み込む私はずっと根暗だ。でも口に出さず愛想笑いで誤魔化しているだけで、考えている事は結構似ている気がする。自分が本来は結構毒舌だという自覚はあるし。
浅利さんにぶちまけた時のように、思っている事を全て口にしたら同意してもらえるかもしれない。まあさすがにやらないけど。
「私よりも篠塚さんはそれこそ溝口さんに似てるんじゃない」
「え、私あんなに真面目でもないし気配り上手でもないですよ」
「多少方向性は違うけど愛想が良くて空気読むタイプなのは一緒でしょ。その割に頑固そうな所も。やってる仕事が違うからまだいいけど、同じ部署でポジション被ってたら微妙な事になってたと思うわ」
それだけ言うと福島さんは私の返答を聞かずにまた背を向けて仕事に戻ってしまった。
私と溝口さんが同じ人物に片思いしているなんて福島さんが知っている訳がない。けれどそれを知らずともこんな指摘をする彼女のシビアな観察眼は侮れない。
もしかすると私が溝口さんに感じている複雑な感情は恋仇故の嫉妬だけじゃなくて、福島さんが言うように同族嫌悪だったりもするんだろうか。でも天然でそれが出来ている溝口さんと違って、私の頭の中は打算だらけなのに。