それが愛ならかまわない
ただ確かに今だってこれだけ彼女の事を意識してコンプレックスをくすぐられているのだから、同じ職種の仕事をしていたらきっともっと酷い事になっているだろう。
福島さんに聞こえないようにこっそりため息をつきながら自分の席に座り、パソコンの電源を入れる。
すぐに帰るつもりだったけれど、このままだとずっと溝口さんの事ばかり考えてしまう。幸いバイトの時間まではまだ少し余裕があるし、仕事を捌け口にするのは不本意だけれどしばらく何も考えずに集中する時間が必要だった。
結局小一時間ほど残業して仕事を片付け、フロアを出た。週末のせいか、既に社内に人の気配はまばらだ。福島さんも三十分程までに先に帰ってしまっていた。
いつも通り着替えは持って来ているので、帰る途中にどこかで着替えればバイトには直接行ける。
腕時計を確認しながらエレベーターで一階に降り、会社を出ようとした所で一番顔を合わせたくない人物に出くわした。私のタイミングの悪さ、男運のなさは筋金入りかもしれない。
「篠塚君」
テカテカした頭髪に照明の光を反射させながら梅田事業部長が近づいてくる。
「体調はもういいのかい。この間少し様子がおかしかったし心配してたんだよ」
あれはいつものように愛想笑いで誤魔化す気力すらなかったせいです、とは言えない。