それが愛ならかまわない

「もう何ともないです。ご心配おかけしました」


「本当に?」


「すっかり元気ですよ。ピンピンしてます」


「じゃあ週末だしたまには飲みにでも行くか。聞いてるよ、篠塚君結構イケる口なんだろ?」


 うわ。
 指で盃を傾ける仕草をしながらぐいと身体を寄せられて、反射的に半歩下がる。思わず顰めそうになった顔の筋肉をどうにか維持した。
 これまで梅田部長と会社の宴会以外で飲みに行った事はないし、今後もそのつもりは一切ない。
 ここはとりあえずまだ本調子じゃなくて……とでも言っておけばよかった。そう今更後悔しても後の祭りだ。


「いえ、申し訳ないですが予定があるので……」


「なんだデートか」


 どうしてオジサン達は終業後に予定があるというとこの返しばっかりしてくるんだろう。その辺は梅田部長に限らず、井出島部長なんかも変わらない。確か長嶺さんにも同じ事を言われたっけ。
 井出島部長の時は「セクハラですよ」なんて茶化せたけれど、梅田部長相手だとさすがに躊躇してしまう。

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