それが愛ならかまわない
「やめて下さい、いつも思ってたけど身体触られるの不愉快です!」
咄嗟にバシッと手を払いのけ、目一杯睨みつける。
「女子社員にベタベタ触ってたらセクハラですよ。皆いつも迷惑してるんだから……」
きつい口調で責めてしまってから、すぐに我に返った。
浅利さんに当たり散らした時とは違う。ここは会社で、相手は上司で、おまけに所属部署のトップ。言葉は選ばなければならない。
恐る恐る梅田部長の顔を見ると、呆気にとられたように手をこちらに伸ばしたまま固まっている。
「……セクハラ?いやそんなつもりはなかったんだが」
身体に触るのも耳元で喋るのもセクハラ以外の何物でもない、ってのはとりあえず置いておいて。
どうしよう。どう取り繕って、どうこの場を切り抜けたらいいんだろう。俯いて思考停止しそうな頭で必死に考える。けれど焦れば焦る程、言葉は一向に出てこない。
「皆っていうのは他にも女子社員にそう言われてるのか……?」
その時、コツコツと大理石の床に音を立てて誰かが近づいて来る気配がした。
下げた視線の先に革靴が見える。