それが愛ならかまわない

「やー怖い怖い。最近は肩を叩いただけでもセクハラになるって知ってました?」


 やけに明るい声で割り込んで来たのはエントランスから入って来た長嶺さんだった。人気の減ったエントランスにその声はよく響いた。
 少し後ろにはコンビニのビニール袋を二つ手にした椎名の姿が見える。二人で買い出しにでも行っていたんだろうか。


「君は……」


「金融の長嶺です」


「ああ、あの……」


 梅田事業部長がどこまで長嶺さんの事を知っているかは分からない。けれど長嶺さんは社内の有名人だ。とにかく酒豪で色々な部署の人と立場の上下問わず飲み歩き、やたら社内の情報通。その上仕事も出来る人で、ソフト開発で社への貢献度を表彰もされている。少なくとも名前は梅田部長も聞き知っているらしい。


「こっちは挨拶のつもりなのにセクハラって言われたら困っちゃいますよね。でも最近は過敏になってる子多いんですよー。まあほら、女性はバイオリズムの高低差も激しいじゃないですか?そういうの男には分からないんで必要以上に気をつけた方がいいんですよ」

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