それが愛ならかまわない

 でも今更何の言い訳も誤魔化しも効かないのは明らかだった。溝口さんが糾弾してしまった以上、お互い笑って誤魔化して見なかったふりというのも今更出来ない。
 服務規程で副業は禁止されている。この事が会社にバレたら、まさか解雇にまではならないだろうけれど、厳重注意の上に部署異動なんて可能性は有り得る。せめて問題なく業務をこなせていれば良かったのに、立て続けにやらかした直後だ。
 あと少しなのに、という気持ちと、積み上げた信頼を打ち砕いてしまったショックと、これからどうしたらいいんだろうという焦りと。頭の中に色んな感情が渦巻いて上手く言葉が出て来なかった。


「莉子ちゃーん、もうちょっとだけお願い!」


 重い雰囲気を壊す明るい声が割り込んで来たのは背後の扉からだった。
 振り返ると、甘い香りと共に小野さんが裏口から顔を出している。


 『もうちょっと』『お願い』って何?ケースを外に出しておく他に何か言われてたっけ?
 パニック状態で正常に働いてくれない頭の中で必死に考える。
 ふと横を見ると、一緒にいたはずのあかりちゃんの姿が消えていた。気づかない内に店内に戻ったんだろうか。


「ごめんね、疲れてるだろうに働かせて」


 ますますもって意味が分からなかった。シフトの入り時間からまださほど時間は経っていない。確かに最近は毎日の様にバイトに入っているし忙しいけれど、自分で希望して入れてもらっているので小野さんに謝られる事じゃない。

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