それが愛ならかまわない

 小野さんが、灯ちゃんが背中を押してくれた。裏で色々動いてくれていた事への感謝を含めて、伝えたい事は山程ある。前に進むなら、今しかない。
 自由の身になったら、なんてただの臆病故の言い訳だ。色々はっきりさせるのが怖くて先延ばしにして逃げてただけ。


 走り出したいと逸る気持ちを抑え、通りに出る前に立ち止まって鞄から電話を取り出す。念の為見える範囲で求めている姿がないか確認したけれど、見当たらなかった。
 電話帳から目的の相手を探し、躊躇わず通話ボタンを押した。耳の中でコール音が鳴り響くけれど相手の声は聞こえて来ない。
 八回鳴らした所で電話を切って、仕方なく別の番号にかけ直す。今度は数秒待った後、電波の向こうから明るい声が聞こえて来た。


『はい、もしもし。珍しいね、篠塚さんから電話くれるなんて嬉しいなあ』


 石渡君の声のうしろでガヤガヤと人の声がしていた。金曜の夜だし、居酒屋かどこかで誰かと飲んでいるんだろうか。


「遅くに突然ごめん、石渡君。ねえ椎名君の連絡先って知ってる?」


『え?椎名?』


「そう、金融の椎名君」

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