それが愛ならかまわない

「今、どこ?」


『……まだ会社』


 会社を出る時に椎名は長嶺さんと買い出しの帰りだった。金曜の夜だと言うのにあれからずっと残業中だったらしい。バックの雑音が賑やかだった石渡君と違って、椎名の声の背後はしんと静まり返っている。


「朝までかかる?」


『いや、もう少ししたら帰るつもりだけど』


 腕時計に目を落とすと、針は十時前を指していた。


「じゃあもう少し会社にいて。まだ帰らないで」


『は?どういう……』


 声だけで眉をしかめた椎名の顔が目に浮かぶ。声が笑いそうになるのをこらえながら、一息に伝えたい事だけ言う。


「後でまた連絡するから。絶対電車乗らないで」

< 245 / 290 >

この作品をシェア

pagetop