それが愛ならかまわない
「今、どこ?」
『……まだ会社』
会社を出る時に椎名は長嶺さんと買い出しの帰りだった。金曜の夜だと言うのにあれからずっと残業中だったらしい。バックの雑音が賑やかだった石渡君と違って、椎名の声の背後はしんと静まり返っている。
「朝までかかる?」
『いや、もう少ししたら帰るつもりだけど』
腕時計に目を落とすと、針は十時前を指していた。
「じゃあもう少し会社にいて。まだ帰らないで」
『は?どういう……』
声だけで眉をしかめた椎名の顔が目に浮かぶ。声が笑いそうになるのをこらえながら、一息に伝えたい事だけ言う。
「後でまた連絡するから。絶対電車乗らないで」