それが愛ならかまわない
* * *
もっと時間がかかるかと思っていたのに、部屋のチャイムがなったのは驚く程早かった。
軽く深呼吸をしてからドアに近づく。重いドアを押し開けると、廊下には少し息を切らせた椎名が立っていた。ここは会社からさほど距離はないけれど、どうやら走って来たらしい。
細めに開けたドアが外からグイッと引っ張られ、無言のまま椎名が部屋に入って来る。
走るのに苦しかったのか大きく緩められたネクタイとボタンを外したワイシャツ。この間見た徹夜明けの姿よりもさらにラフな姿で、それが椎名の焦りを表しているようで嬉しかった。
「早かったね。来てくれてありがとう」
「絶対帰るなって言ったのは自分だろ。……っていうかここ……」
足元に鞄を下ろした椎名が部屋の奥に目をやる。
部屋の大部分を占める大きなベッド。真っ白なシーツ。磨りガラスの向こうのバスルーム。
最初に椎名と来たホテルに私は椎名を呼び出した。あえてここを選んだのは遠回りをしたけれどやっとスタート地点に立てた自分へのご褒美だ。今回は割り勘なんて言わないし、もちろんこのせいでローン完済がさらに少し遅れるかもしれないのは事実だけれど、今更焦っても仕方ない事はもう分かっているから。
「また眠れないとか?もう贅沢はしないんじゃなかったのか」