それが愛ならかまわない
「散々悩んだし泣かされたんだからこのくらいのわがまま聞いてよ」
私がそう言うと椎名は少し意外そうな顔をした。彼の目にどう映っていたのかは知らないけれど、見えない所で私は散々この厄介な恋愛感情に振り回された。倒れたのだって仕事でミスをしたのだって、椎名と溝口さんの事を気にして寝不足だったからと言えない事もない。
「自分だってはっきり言ってないくせに」
「じゃあ私から言う。私は椎名の事が……」
元々自分の気持ちをちゃんと伝える気だったのだ。今度こそ素直に告白しようとした瞬間、椎名の腕が伸びて来て掌で口を塞がれた。
同時にもう片方の手で腰を引き寄せられて、身体と身体の距離がなくなる。
レンズの向こうの睫毛が私の視界を横切って左側に消えた。
「好きだ」
「────っ!」
抱きすくめる様な体勢で耳元で囁かれて、腰と膝の力が一気に抜けそうになったのを椎名の手が支えてくれる。
あの眼と見つめ合った訳でもないのに威力が有り過ぎた。不意打ちで、しかもこんな破壊力の高いやり方は卑怯過ぎる。