それが愛ならかまわない

 触れるだけの短いキスの後、改めて椎名が私の背中に手を回して引き寄せた。スーツの肩に頭を預けると、彼の腕の中にいるという安心感で今日一日の疲れが軽くなるのが分かった。


「ねえ、いつから?」


「え?」


「いつから私の事好きだった?」


「……さあ」


「教えてくれてもいいでしょ」


「その内にな」


 そう言って今度は椎名からキスをした。さっきよりも大分長めに。
 誤魔化されたのは分かったけれど、頑なな椎名の様子にこの場での追及は諦める。照れ隠しだと灯ちゃんは言っていた。その内またタイミングを見計らって訊ねればいい。


 その夜は結局何もせず、それぞれシャワーを浴びてただ一緒にベッドに入って眠った。始まりの夜は恥も照れ臭さも吹っ飛ぶくらい大胆に求め合ったのに、全く私達は順番が色々とおかしい。
 けれどしっかりと抱き寄せるでもなく、軽く腰に回されただけの椎名の手が温かくて心地よかった。眼鏡を外して目を閉じた椎名の羨ましいくらいに長い睫毛を眺めながら、ゆるゆると眠りに堕ちて行く幸福感。

< 253 / 290 >

この作品をシェア

pagetop