それが愛ならかまわない
「構わないですよ。溝口さん仕事早いし」
椎名との諸々を知らない立岡さんは、あの時溝口さんが過剰な怒りを私に向けていた理由が気になっただろうに、それ以上は何も踏み込んで来なかった。まさか三角関係の縺れですとは言えないので、問われない方が正直こちらも助かる。
「まあ篠塚がいいならいいけどな」
「変な気遣い要らないですよ。子供じゃないんだし甘やかさないで下さい」
同じ会社を受け持って私とやり取りする機会が増えた所で、溝口さんも私情を挟んで仕事に支障をきたす様な事はしないはずだ。
その辺の彼女の潔癖さは信頼していいと思う。
しばらく立岡さんと雑談してから鞄とマフラーを持って廊下に出ると、いつの間に先回りしたのか廊下に溝口さん本人が立っていた。
「……お疲れ様、外出して来ます」
無言で通り過ぎるのも感じが悪い気がしたので、それだけ言って彼女の横を通り過ぎようとした時。すれ違いざまにポツリと溝口さんが呟いた。
「……やっぱり篠塚さん、椎名さんと付き合ってるんですか」