それが愛ならかまわない

「会社に呼ばれて仕事帰りに寄ろうとしてた時に、椎名さんと篠塚さんが二人で歩いてるの。あのケーキ屋さんの前でお二人が別れて、その後篠塚さんが中で働いてるのも。……服装も完全にプライベートな感じでした」


 どこかでバイトしている所を見られたんだろうと予想はしていたけれど。彼女が言っているのは私のミスの埋め合わせで徹夜で作業してもらって、私の部屋で椎名と二人夕方まで寝ていた日の事だろう。バイトに行く時だから私は普段の通勤とは違うカジュアルな服装だったし、椎名はスーツ姿。何とも絶妙なタイミングで溝口さんは私達を目撃した事になる。


「あの時篠塚さんのミスで突貫作業する事になって立岡さんとか徹夜だったのに、篠塚さん楽しそうで。何してるんだろうって思っちゃって」


 確かにあの日、ずっと睡眠不足だったのによく眠れてすっきりしていたし、思いがけず椎名に優しくされて浮かれてもいた。
 溝口さんと椎名が夜の繁華街に消えて行ったのを目撃した時のショックと嫌な気分を引きずった事を思い出す。どうしても御礼がしたいと言われて断り切れず、結局グラスビールを一杯奢ってもらっただけだと最近になって椎名に聞いたけれど、嫉妬にかられて着替えるのを忘れてバイトに行ってしまったり仕事が手につかなかったりと散々だった。
 多分溝口さんはあの時の私の心境と似た様な気持ちだったんじゃないだろうか。私が直前にミスをしてあちこちに迷惑かけた事を知っているだけに、真面目な溝口さんは余計に腹が立ったかもしれない。
 そもそも会社に内緒で副業をしていたのは事実で、全面的に非があるのは私の方だ。だからこそ今回の件で彼女を恨む気にはなれなかった。

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