それが愛ならかまわない

 さすがに口止めでいきなり寝たとか慰めろと迫ったとかの細かい事情までは暴露出来ないけれど、言える範囲で正直に説明する。正面からぶつかってきてくれた彼女に対して、今更とは言え少しでも誠実でありたかった。
 私の答えに、溝口さんは軽く目を閉じてそばにあった椅子の背に片手をかけ、口から大きく息を吐いた。


「私素直じゃないし、ちょっと色々順番間違えたから溝口さんに余計に嫌な思いさせたと思う。溝口さんの気持ちは先に知ってたんだから、自覚した時にちゃんと言うべきだった。結果的にこっそり出し抜いたみたいな形になって本当にごめんなさい」


「……早い者勝ちな訳じゃないんだから、出し抜いたとか思わなくていいんですよ。椎名さん、私に気を遣ってはくれるけど当たり障りのない態度しか取ってくれなくて踏み込ませてくれないし。篠塚さんといるのを見た時は私の知ってる椎名さんと全然雰囲気違ってて、気を許した人にはあんなに表情豊かなんだなって分かっちゃいました」


 眉を下げ、寂しそうな表情で溝口さんが笑う。一瞬泣きそうに見えたけれど、彼女の目から涙は溢れなかった。


「すぐには切り替えられないけど、すっきりしました。仕事はちゃんとやるんで心配しないで下さい」


 敵わないなあ、と思う。ただの清楚で真面目な子じゃなくて。嫉妬も八つ当たりも自分で認めて、真っ直ぐに人に相対出来る強さ。そもそも溝口さんは、最初から椎名に対しても誰かをだしにしたりする事なく直球の行動派だった。散々自分に言い訳しながら現実から目を逸らしていた私とは大違いだ。安田君、椎名よりよっぽど見る目ある。

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