それが愛ならかまわない

* * *





 今日はこの冬一番の冷え込みだと朝のニュースが言っていた。実際日が落ちてからは気温が一気に下がり、口から漏れる息が白く可視化しては空気の中に溶けて消えて行く。
 信号で立ち止まったタイミングでマフラーに顔の下半分を埋めながら腕時計に視線を落とすと、針は六時過ぎを指していた。予定より少し遅くなってしまったけれど、一度会社に戻っても七時半にperchでと約束した椎名との待ち合わせには充分間に合うはずだ。


 手袋をはめた手でバッグを肩にかけ直していると、不意に背後から名前を呼ばれた。


「莉子?」


「え?」


 振り返ると、同じ様に信号が変わるのを待つ人々の中に、久々に見る顔が驚いた様な表情で立っていた。
 既に少し懐かしいとすら感じてしまうくらいに、別れてから時間が経った気がする。


「……浅利さん」

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