それが愛ならかまわない
休憩中の店の前で別れて以来会っていないし電話もなかった。あの日こそバイト先まで追いすがられたけれど、その後音沙汰がなかったのはきっぱり諦めてくれたんだと思う事にしていた。プライドの高い人だというのは分かっている。だからこそ鬱陶しいとまで言った女をいつまでも引きずったりはしないと思っていた。
顔を合わせるのは数ヶ月ぶりだ。記憶の中の彼の姿より、頬の肉が削げて顎のラインがシャープになった。少し老け込んだかなとは思うけれど決して貧相な雰囲気ではなくて、以前よりも柔らかい表情をしているのに少し精悍になったようにさえ映る。
そう言えばこの人と別れた事が色々と私の転機だった。あの日もめた現場を椎名に見られたからこそ全てが始まったのだ。
「少し痩せたな」
私が思っていたのと同じ科白を浅利さんが口にする。
「同じ事思ってました」
自然に顔が苦笑いの表情を作る。
お世辞にもすっきりした別れ方だったとは言えないのに、無理に合わせた愛想笑いじゃなく普通に笑える事に自分でも少し驚いた。付き合っていた当時は敬語を使う事もなくなっていたけれど、口をついて出たのは出会った当時の頃の話し方だった。
とっくに信号は青に変わっていたけれど、何となく道の端に寄って会話を続ける。
「バイトは相変わらず忙しいの?」