それが愛ならかまわない
* * *
浅利さんに会った、という話をしても椎名は「へえ」と一言投げただけで何を話したとか訊ねてくる気配は一切なかった。こちらを見もせず、ビールの入ったグラスを口に運んでいる。
別に食らいついて欲しい訳じゃないんだけど、こうも無反応だと少し悔しい。というか仕事を任せたいと言ってもらって浮かれている私のテンションとのギャップが悲しい。
「……ちょっと妬けたりする?」
「まさか」
何を馬鹿なことを、と言わんばかりの顔で椎名が白けた視線を投げてくる。
クールぶっているのは照れ隠しだと灯ちゃんは言っていたけれど、この表情を崩すのは中々難しい。この間の夜だって結局走ってきて息を切らせていただけで、なんだかんだいつもの椎名だった。ここはperchの店内だし、カウンターの向こうに矢吹さんもいるし、やっぱり人前ではどうしたって無理なんだろうか。
この余裕をぶち壊して見たくて私は今日もささやかな抵抗を試みる。
「あれだけキツく振ってるの見てんのに今更何があるの」