それが愛ならかまわない
「……」
椎名が小さくため息をついた。
眼鏡を奪い返してかけ直すと、そのまま私の手を取り駅へ向かって歩き出す。会社の人に見られる可能性が再度ちらっと頭をよぎったけれど、今更どうでも良かった。
普段は外向きの自分を装う、意地っ張りで素直じゃない私達。けれど普段は私が愛想笑いで飲み込む憎まれ口を吐き出させるのが椎名なら、椎名のポーカーフェイスを崩して赤く染められるのは私。
先の事なんて今はまだ分からない。けれど人前では見せない素顔をお互いに晒し合える、そういう居心地の良さをこの人となら守っていける。
そんな予感がした。