それが愛ならかまわない

「引っ張るなよ、寒い」


「いやだって……」


「布団独占するの禁止」


 言うなり椎名は私を背中から引き寄せて自分の腕の中に収め、布団をかけ直す。背中と脚に感じる椎名の体温が熱い。照れ臭い体勢だけれど、顔が見えるよりはマシかもしれない。


「……狭いのが悪いんだってば」


「昨日『何ここ広い!ずるい!』って言ってたの誰だよ」


「部屋じゃなくてベッドの話です!」


「じゃあ買い直すか。まあ確かにシングルだし夏は暑いかもな」


「……」


 まだ引っ越すって決めてないし、当然返事もしてないんですけど。
 別に嫌な訳じゃない。自分の部屋はそれなりに気に入ってるけど、やっぱりこうしてみるとオートロックとフローリングと自動給湯いいなあとか思っちゃうし。椎名といるのは思った以上に気楽で居心地が良いというのも知ってしまったし。
 ただ何というか当然の様に引っ越す前提で話をされてしまうと、捻くれ者の私は素直に頷いてしまうのが少し癪なだけなのだ。

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