それが愛ならかまわない
単に顔のお陰ってばかりじゃない。こういう発言が許されるキャラクター作りを日頃から心掛けているだけなんですよ。
口には出さず心の中で答える。
仕事を円滑に進める為なら愛想を振りまく事を厭わないし、多少の媚だって売る。一部の人から反感を買っている事は知っているけれど、笑顔一つで契約が取れて納期が守れるなら安い物だ。少なくとも成績的な意味ではそれなりに優秀な社員だという自負がある。
こういうポリシー故に人に敬遠される事は多々あるし、きっと椎名に指摘された友人の少なさの理由の一つにもなっているはずだ。自覚はある。実際社内に素の自分を見せて話の出来る人間はいない。ただそれを改める気も今の私にはなかった。
「まあしゃーないな、男は美人に弱いもんだ」
突然割り込んできた声に振り返ると、いつの間にか梅田事業部長がニヤニヤと笑いながら後ろに立っている。
「篠塚君にその目で頼まれたら断れないよなあ」
事業部長の両手が私の肩に乗って肩もみのポーズを作る。至近距離から整髪料の匂いは漂ってくるし触られるのは正直不快だったけれど、この相手だと振り払うわけにもいかない。
梅田部長はいつもセクハラスレスレの発言とスキンシップが多く、女子社員からの評判はすこぶる悪い。ギリギリの所で笑って流せるレベルなので咎めはしないけれど、扱いに困る人なのは確かだった。
目の前の立岡さんだって焦ったような顔をしているしこれがセクハラと言われかねない行為なのは分かっているはずだ。でもこの人が相手ではきっと何も言えない。