それが愛ならかまわない
愛想笑いを顔に貼り付けたまま、私は振り返る事でその手から身体を逃がす。
「やだ梅田事業部長。いきなり背後に立たないで下さいよ、ビックリするじゃないですか」
「皆の普段の仕事ぶりが見たいからね。気配を消して来るのさ」
何やら梅田部長は得意そうな顔をしている。
彼のデスクは別のフロアにあるのに、いつもこうして時折抜き打ちテストの様にやってくる。女子社員だけじゃなくて井出島部長始め男性社員も快くは思っていないはずだけれど、立場上この人に意見出来る社員は残念ながらここにはいなかった。
井出島部長のデスクに近づいていく彼の背中を眺めながらこっそりとため息をつくと、すぐ側に座っていた福島さんがこちらに顔を向けた。
「篠塚さん、嫌ならはっきり言った方がいいよ」
名指しこそしていなかったけれど、それが梅田事業部長の事なのは明白だった。
普段の福島さんはどちらかというと私を敬遠している女子社員の一人だ。彼女が私を気遣ってくれるのは珍しい。
『共通の敵』がいる事がその歩み寄りの理由だと思うと、全く『女子』というやつは厄介だ。