それが愛ならかまわない

 だって私には愛想を振りまくくらいしか脳が無いですから。
 そんな風に卑屈になってしまうのは昼間の件があったせいかもしれない。


「そういや来月新商品についての社内向け説明会あるよ」


「え、いつですか?」


「まだ正式に連絡回ってないけど、十日。篠塚ちゃん出たいんだろ」


「出たいです。空けとかなくちゃ」


 その週には九州でのセミナーの為に出張の予定がある。ただ幸い予定は被っていなかった。
 上司の覚えもめでたく社内の隅々についてまで情報通な長嶺さんが流してくれるこの手の情報は本当に役に立っている。だからこそ私は彼の飲みの誘いを断らない。新規のプロジェクトや各部署の業績、人事といった仕事の話だけじゃなくて、誰と誰がくっついたなんて社内のゴシップまでどこからか仕入れてくる辺りが凄い。長嶺さんとは歳も部署も違うにも関わらず、私の同期でこっそり付き合っているらしいカップルの話を聞いた時には驚いた。


 駅前まで来ると、長嶺さんは結局一人でも飲みに行くと構内には入らず手を振りながら去って行った。必然的に私と椎名がその場に残される。
 長嶺さんは私達が駅に辿り着くまで直接口を利かなかった事に気づいただろうか。
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