それが愛ならかまわない
ドアの前に立ち向かいあっているのに、お互い別の方向を見ていて視線が合わない。横のガラスに映る椎名はいつものクールな表情で何を考えているのかは全く読めなかった。その取り乱した顔が見たいと思っていたはずなのに、顔を合わせたのが予定外だったので咄嗟には何も浮かんでこない。会話はないけれど、かと言ってジャケットのポケットの中で細かく震えていたスマートフォンを取り出す気にもならない。
そのまま私達は一言も発さず、結局目的地に着くまでまるで偶々乗り合わせた他人のように押し黙ったまま電車に揺られていた。
到着のアナウンスを聞いてドアに寄りかかっていた身体を起こすと、椎名も同様に姿勢を正す。
「ねえ……ここで降りるの?」
「家に帰るんだから当然だろ」
……まあそうじゃないかとは思ってたけど。
言い方がいちいち嫌味でいらっとさせられる点は、理性を総動員して受け流す事にする。
確認した所によると、椎名はあの日うちのケーキ屋の隣にある弁当屋で注文の出来上がりを待っていたらしい。
店から見ると私の家と椎名の家とは逆方向ではあるけれど、最寄り駅は同じ。
入社してから四年も経つのに同期の自宅が近いなんて全く知らなかった。
「篠塚の家は?」