それが愛ならかまわない

 電車を降り人の流れに沿って改札に向かって歩きながら、ついでのように椎名が尋ねる。
 普段私は恋人にでもならない限り自宅の場所はもちろん最寄り駅すら教えない。適当ににこにこしながら「秘密です」と煙に巻くはずだ。


「あの店から東に行ってすぐ。歩いて十分くらい」


 なのについポロッと答えてしまったのは、椎名に対する警戒心が薄れているからなんだろうか。もう愛想笑いで取り繕うという選択肢は最初から放棄して、今の私は素で話している。身体を許したからって心まで許したつもりはないのに。
 とりあえず恋人以外とこういう関係になった事はないから距離のとり方を掴みあぐねているのは間違いない。


 私の返答を聞くと椎名は少し驚いたような顔をした。
 気持ちとしてはもっとその表情を崩してやりたいけれど、期せずしてこの顔を見られただけでも今は良しとしよう。


「実家?」


「まさか。家から近くて会社の人が来なさそうなバイト先を選んだだけ」


「女で一人暮らしにここを選ぶって珍しいな」


「学生の時からここに住んでて慣れてるし、何より……」

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