それが愛ならかまわない

 飲み屋やキャバクラ等がずらり立ち並ぶ繁華街があるせいで治安や環境が良いとは言い難い、どちらかと言えばごみごみした街だ。確かに女子の一人暮らしに適した場所じゃない。それでも離れることが出来なかった明確な理由がある。


「「家賃が安いから」」


 ハモった。


 思わず椎名の顔を見上げると、すっかりいつものクールな表情に戻っている。


「金が欲しいんだろ」


「……分かってるなら訊かないでよ」


 色々バレているというのは、時に気楽で時に厄介だ。
 このまま喋っていると気が緩んで余計な事まで口を滑らせてしまいそうだった。


「篠塚」


 改札への階段を登り切る直前。
 今は椎名が私の数歩後ろを歩いているのでさっきとは逆に見下ろす形になる。


「何」

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