それが愛ならかまわない

* * *




 背後の壁にかかった時計を見ると、二十二時を過ぎていた。
 月曜日であるせいか客足はまばらで、今のタイミングは店内に客の姿がない。店の外を通る人の数も心なしか少なく見える。
 まあ確かに週の始まる月曜から飲みに出かけようという大人は週末に比べればずっと少ないはずだ。もちろん中には長嶺さんのような人もいるので一概には言えないけれど。


「休憩行ってきます」


 小野さんの返事を確認し、裏口から店舗の外に出た。


 早ければ十九時半から閉店後の零時半までの私の勤務時間の中で、トイレ休憩の他に日によって十五分から二十分の休憩が与えられている。取る時間はいつもまちまちで、暇になった隙を見つけて自己申告するようにしていた。
 時間的に外は暗い上に長い休憩でもないのでバックヤードで過ごす事が多い。その日ふと思い立って裏口から外に出たのは本当に珍しい偶然だった。


 いくら暗いとは言ってもひんやりとした外気に触れるのは狭い店内で過ごすのとは開放感が違う。自分の鞄から持ち出したペットボトルを手にしたまま、立ち仕事で凝り固まった身体を大きく伸ばす。
 ふとその時、既視感を感じた。

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