それが愛ならかまわない

 多分椎名はその気になれば完全にポーカーフェイスを保って素知らぬ顔が出来るタイプだ。これ以上の追及は無駄だと諦める事にした。


「今日は残業?」


「あー……まあ」


 技術職の部署は残業が当たり前のようになっている。時間を考慮しての世間話的な問いかけだったのだけれど、椎名にしては珍しく歯切れの悪い答えが返って来た。


「……そのこの間の食堂の、篠塚が連れてた協力会社の奴」


「え、溝口さん?」


「そんな名前だったっけ」


 予期せぬ名前が出て来て驚く。


「彼女が使ってる端末がトラブってて。システムの面子がもう帰ってたんで代わりに対応してた」


「え……椎名が?」

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