それが愛ならかまわない

「北見ぃー、何そんな所でナンパしてんだよ。次行くぞー」


 どこからかそう呼ぶ声がした。
 ここは繁華街だ。会社の同僚か友人とでも飲みに来たんだろうか。


「ちょっと知り合いに会ったんで先行ってて下さい」


 北見先輩がそう答える。
 私は話なんてない。さっさと消えて。
 そう言いたかったけれど、口には出来なかった。肌寒いくらいの気温なのに、制服の下で汗が流れるのを感じる。
 何年も会っていなかったから、顔を見た時にどうなるのかなんて考えた事もなかった。
 胸の内をドロドロした何かが覆っていく。時間が経っても何も治まってない。怒りも恨みも。


「何、お前フリーターなの?」


 私の格好と背後にあるバイト先を見比べて北見先輩が言う。


 ちゃんと働いてる。
 そう言い返したかったけれど、私はグッと言葉を飲み込んだ。
 こんな所で喧嘩を買って、言い返した所で何になる。どうせ縁なんてとうの昔に切れている。誤解しているなら誤解させておけばいい。

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