それが愛ならかまわない
まんまと引っ掛けられたのにおろおろと狼狽えるだけの母親に腹が立った。しまいには弟の大学資金の口座を解約して何とかすると言い出したので、私が何とかすると言って全力で止めた。
あれからずっと母親とはギクシャクしたままだ。大学を卒業して家を出てからは数える程しか連絡を取っていない。電話がかかってきても出る気になれなかった。
ボーナスだって殆どこの返済に充ててきた。家賃を安く抑えて、仕事もバイトもがむしゃらに頑張った。自由になった後の立ち位置をちゃんと確保する為、上司や先輩社員と上手く立ち回れるように気を配ってきた。
ローンの完済まで、計算上は五ヶ月。
あと少しなのに。
あと少しでこんな副業生活から開放されるのに。
「俺が、何とかしてやろうか?これでも結構稼いでるし」
その瞬間、格好つけた笑いを浮かべる奴の顔を張り飛ばしてやろうかと思った。
諸悪の根源が今更何を。
唇を噛み締めて思わず一歩下がると、左肩が何かにぶつかった。
首だけを背後に向けると、濃紺のスーツの肩。そのまま視線を上げると眉をしかめた椎名の顔がある。
そうだ。椎名がいたんだ。
今の会話、聞かれた。