それが愛ならかまわない

「本当に椎名って間が悪過ぎ……」


 どうして今ここにいるのはこの男なんだろう。
 見られたくない表情を誤魔化す事すら出来ないくらい最悪のタイミングで、いつも椎名はそこにいる。
つくづく私は男運がない。


「莉子」


 再度前を向く事が出来ない私の背中に向かって、北見先輩が名前を呼ぶ。反射的に身体が竦んで、自分のつま先を睨んだ。
 嫌だ。名前でなんて読んで欲しくない。けれどわざわざそれを伝える為に口を開く事すら身体が拒否する。これ以上彼と言葉を交わしたくなかった。浅利さんの時の何十倍も強くそう思う。


「それともその彼氏に肩代わりしてもらうように頼むのか?フリーターの収入なんてたかが知れてるだろ」


「……」


「篠塚」


 それまで私達のやりとりを黙って聞いていた椎名が初めて口を開いた。

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