それが愛ならかまわない

「そろそろ休憩終わる」


「え……ああ」


 予想外の科白に思わず気の抜けた声が出た。
 確かにそろそろ十五分経つ。だけど椎名に休憩が何分あるかなんて言ってないし、それに。
 背後の北見先輩を気にする素振りを見せた私に、椎名が重ねて言う。


「戻らなきゃ不味いんじゃないの」


 ひょっとしたらこれは助け舟なんだろうか。
 でも今ここで私が立ち去ったら北見先輩と椎名を二人で残して行くことになる。多分私達の会話から大体の事情は椎名だって察しただろうけれど、椎名を私の恋人だと誤解したらしい北見先輩が何を言うか分からないのに。
 椎名の口調はそこに第三者がいるなんて思えない程単調で、焦っている様子もない。
 その真意が知りたくて眼鏡の奥の表情を覗こうとしたけれど、レンズにライトが反射していてその奥は読めなかった。


「客結構来てるし」


 椎名は淡々と畳み掛ける。
 彼が指差した方を見ると、実際店内にさっきまでよりも客が増えて来ていた。
 北見先輩がつられて私と同じように店内へ視線を向けた一瞬、椎名が「いいから早く行け」のジェスチャーをする。

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