それが愛ならかまわない

 誰にも知られたくなかった。知らせるつもりもなかった。
 絶対に誰にも頼らず一人で完済して、何でもない涼しい顔をして順風満帆に生きて行く。それが私に出来る唯一の復讐だと思ってた。その為に仕事もバイトもがむしゃらに頑張った。
 愛想笑いだって立派な社交術の一つだ。だから女を武器にしてると陰口を叩かれるのだって平気だった。後ろめたい事は何もしていない。盲目的に目標に向かってさえいれば、些細な事は気にならなかった。
 何でそれを寄りによって椎名に知られてしまうんだろう。無駄に察しの良い彼の事だ。私達の会話からきっと粗方の事情は飲み込んだに違いない。


 視界の端が微かに滲んだ。安心したせいなのか、悔し涙なのかは自分でも分からなかった。
 今更泣いて何になる。
 それ以上みっともない顔になるのを抑える為に、必死で自分に言い聞かせる。
 北見先輩になんてきっともう二度と会わない。次はすれ違ったって気づかない。彼の言葉になんて惑わされず、私はただ真っ直ぐ自分で決めた道を進めばいい。椎名に何を知られたって構わない。ゴールはもう少しだ。


「莉子ちゃん?」


「……はい、今行きます!」


 自分で思った以上に平静な声が出せた。瞼に残る熱はほんの僅かで、涙も既に引いている。笑顔だって作れる。
 大丈夫。ちゃんとコントロール出来ている。
 自分自身を保てている事に安心する。
 大きく深呼吸して、カウンターに向かって私は歩き出した。何よりも今大切な事は、この生活から解放される為にしっかり働いて稼ぐ事なのだ。

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