それが愛ならかまわない

 スプーンを口に運びながら、早々に食べ終えて水を飲んでいる椎名を遠慮がちな上目遣いで見上げる。
 食べるのに邪魔だったのか、彼は眼鏡を外していた。長めの前髪をかき上げる仕草が妙に艶っぽい。やっぱりその眼に妙な色気があって、正面から直視する事が出来ない。
 なんでこのタイミングで外すかな。やけに身体が火照るのはあくまで香辛料のせいであってその眼のせいではないけれど。


「奢りだって言うし」


「そりゃそうだけど……」


「自分に損がない話なら乗るだろ、普通」


 すっぱりと椎名が言い切る。


「だからあの時も私の誘いに乗った?」


 矢吹さんが厨房に入っていて不在のタイミングだったので、あえてずっと避けてきた話題を投げてみる。前回のお昼の件じゃなくて、その夜の方の話だ。
 椎名が本気で鬱陶しく思っていたならあの時の私のめちゃくちゃな誘いを無視する事だって出来たはずだった。
 横を向いていた椎名の視線が一瞬だけこちらを向いて、すぐまた逸らされた。目が合った瞬間に心臓が跳ねたのも、香辛料の効果で代謝が良くなっているせいだと思いたい。


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