それが愛ならかまわない

 昨夜このホテルを選んでフロントで部屋を取ったのは椎名だった。
 どうせならラブホテルなんかじゃなくて綺麗なホテルがいいと我儘を言ったのは私だ。適当な場所を選ぶと後で惨めな気分になりそうだったから。
 ここは女性向けのファッション誌や情報誌にもよく掲載される人気のデザイナーズホテルで、金曜の夜なんかに飛び込みで部屋が取れたのはラッキーとしか言いようがない。以前から憧れていた場所に、まさかこんな形で来ることになるとは思わなかった。まあ宿泊費は折半と言うことになってるけど。


「じゃあコーヒーでも淹れるけど椎名はどうする……」


 どうせならチェックアウトの刻限までホテルを堪能してやろうと、昨夜は使わなかった備え付けのポットに向かって歩き出した瞬間、ベッドからずり落ちたシーツを踏んだ。スリッパの底がずるっとシーツの表面を滑る。


「ひゃっ」


「おい」


 完全に身体がバランスを崩したタイミングで宙を泳いだ手が何かを掴んだ。床への転倒を免れたくて必死で指に力を込める。


「……!」


 世界がぐるりと反転した。突っ張った腕にシーツの感触が当たる。

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